紫煙(しえん)

紫煙(しえん) 光・炎・夜・闇などの色言葉一覧

紫煙について

紫煙とは紫色の煙(もや)、または煙草の煙の事

紫煙とは、現在では紫色の煙(もや)、または煙草の煙のことを意味します。
古くは紫烟(煙)と書き、元は中国唐代の詩人・杜甫の「曲江二首(其一)」の中の「朝回日暮飲,昨日看二朱紱一、今宵変二紫烟一」という一節に由来します。
「朝回日暮飲,昨日看二朱紱一、今宵変二紫烟一」の意味ですが、朱紱(しゅふつ)は赤い組紐を意味しますが、ここでは朝廷に仕える宰相のような高官が身につける印や官服を指します。
紫煙(紫烟)は宮廷に立ち上る紫色の香煙を意味しますが、ここでは煙のように消えてしまう権力や栄華のことです。
つまり高貴な官服を身に着け栄華を極めた人たちが、今では紫煙のように権力の座から消えた、もしくは亡くなってしまったという意味になります。
紫煙がなぜ権力や栄華を意味したかというと、日本でも中国でも紫色は限られた人しか身に着けることのできない高貴な色であったためと思われます。

日本には平安時代あたりに中国から伝来したと思われます。
京都・十輪字には、平安時代の歌人・在原業平が難波(大阪)の海辺で汲んだ海水を寺まで運ばせ、山中で塩を焼いて塩釜から立ち上る紫煙の風情を楽しんだという故事が残されています。

紫煙が煙草の煙を意味するようになったのは、明治以降にに小説などで使われ出したのがきっかけです。
江戸時代まではタバコといえば刻んだ煙草の葉をキセルで吸っていましたが、明治になると紙巻タバコが登場し、大正時代から昭和初期にかけて、都市部では刻みタバコより紙巻タバコの需要が上回るようになったそうです。
カフェーなどで珈琲を飲み、タバコを深く吸い煙を吐き出す、というのが当時のハイカラなスタイルとされました。
そのためか多くの文学作品で、思考を巡らさせたり、憂鬱さの表現や大正ロマンの象徴としてタバコの煙を「紫煙(紫烟)」と表現するようになっていったようです。
大正15年(1926)には、建築家・堀口捨己は実業家・牧田清之助の妾宅として「紫烟荘」という木造二階建ての住居を設計しています。